ご飯の美味しさの科学
2007年 12月 10日
ご飯のおいしさを客観的に数値化することは果たして可能でしょうか?
現在精米機器を取り扱っている各メーカーさんが、食味計や品質評価装置などのお米やご飯の美味しさを測定する分析機器を販売しています。それらの装置の評価値の理論的根拠は様々です。アミロースやタンパク質や水分の含有量、マグネシウムとカリウムの構成比、粘りや照りの形成層の厚み・・・等々。
科学的客観性を備えているとすれば同一であるべき理論的根拠が、どうしてこのようにもバラバラなのでしょうか? 結論をひとことで言ってしまうと、ご飯のおいしさそのものを"ポジティブに示す呈味物質"といえるものがない為、それを確実に数値化できる域まで技術が到達していないと言えるかと思います。(もちろんこれらの計測機器もある程度の水準まではクリアされているのですが、実際に食べたご飯の美味しさの実感と等価であるかどうかの確実性となると、その完成度は今一歩の感は否めません・・・。)
一般的にご飯の美味しさは「粘弾性と仄かな甘み」によってほぼ決まると言われています。従ってこの両者を構成する物性と呈味成分の要素を十分な確度で定量的に分析できればご飯の美味しさの測定は一見したところうまく行くかと思われます。しかしながら実はご飯の美味しさを構成しているのは、単純な要素の複合ではないのです。
ご飯という状態は、年産・産地・銘柄などといった米自体の成分や構造の諸要素×搗精の技術×洗米の技術×使用する水の水質×浸漬時間×外気温や穀温×炊飯器の性能(火力や加熱パターン等)×炊きあがったご飯の攪拌や保存状態・・・と言ったミクロの成分からマクロに至る系の複雑な諸作用プロセスの結果なのです。
これらのミクロからマクロに渡る複雑な作用プロセスの結果であるものを、主要素に還元し、定量的かつ確実に予測評価できる技術までには、われわれはまだ行き着いていないというのが実情なのです。また分析機器メーカーの美味しさ評価の基準スケールにしてもまちまちであり、A社での機器で測った米の評価値が80でも、B社の機器で測った評価値は65だったというようなケースが往々にして生じています。(従って同一性のない食味の計測値の取扱いには注意が必要であり、実際の分析現場では品質変動のモニタリングといった活用にウェイトが置かれることとなります。)
将来的にはゲノムそのものを迅速解析することによって、美味しさの科学的判定に飛躍的な進歩をもたらすことが可能になるかも知れません。しかしながら現在のこの方面の科学技術ではまだまだ人間の官能--視覚・嗅覚・味覚・触覚--による直感的判断がやはり一番確実であるこもは否めないというのが正直なところなのです。
高度な先端技術の粋を集めた探査機が遥か遠い火星まで行くことのできる21世紀に入っても、未だ人間の感覚にとって代わる確たるセンシング技術がないということは、或いは自然の振る舞いや人間という存在の複雑さの一端を示しているのかも知れませんね。
